現世でランチ

今日も今日とてダラっとした日常にぶら下がっている。
エンターテインメント性に充ち満ちた休日に比べて、なんなんだこのスリープモードのような平日は。無論、365日を楽しく過ごしたいだなんて極論を言うつもりはない。たまに「いつだって今が最高!今この瞬間を楽しまなきゃ!!」みたいな輩もいるが、そいつは十中八九そういうクスリをやっているから気をつけろ。にしても、人生の5/7が平日だなんて、いささか慎ましく生きすぎなのではないだろうか、シャカイジン。

そこで主は「飯あれ」と仰せになった。
シャカイジンは平日にも1日3回飯を食い、専らそのうちの昼飯を食らうその瞬間に限り、わずかながらエンターテインメント性を感じることを赦された。

旧約聖書にも上記のような記述があるように、シャカイジンにとってのランチタイムは、ワークタイムという名の砂漠にぽっかり現れたある種のオアシスでもある。ある部長は会社からたっぷり15分歩いたところにあるお気に入りの定食屋まで足繁く通い、近所の有名なラーメン店では毎日お昼時になると、ワイシャツ姿のおっさんたちが列をなす。NHKで「サラメシ」という労働者の昼食をキャプチャーしたドキュメンタリー番組まで製作されるぐらいなのだから、昼食という名のエンターテインメントをひとつの拠り所としているシャカイジンが如何に多いかということが窺い知れる。

シャカイジンの昼飯は多種多様だ。
大衆食堂の日替わり定食を毎日の楽しみにしているシャカイジンもいれば、今月新しいゴルフクラブを買ってしまい、あまり余裕がないので社員食堂やコンビニで済ませる、というシャカイジンもいる。内勤のシャカイジンは何の気兼ねもなくラーメンにニンニクを摩り下ろすし、グルメなシャカイジンは最近ランチメニューを始めたという寿司屋の行列に加わる。新婚ホヤホヤのシャカイジンはいそいそと愛妻弁当の包みをほどき、喫茶店の看板娘に恋したシャカイジンは今日もまた声をかけられずにナポリタンをちゅるちゅる啜る。無個性だの画一的だのと揶揄されることの多いニッポンのシャカイジンであるが、昼飯にはシャカイジンの数だけドラマが宿っているではないか。

「フォークは悪魔がつかうもの」とは、川上未映子の言らしい。さしずめスプーンは天使の道具なのだろう。
悪魔にも天使にも頼ることなく、二年目のシャカイジンはマクドナルドのハンバーガーを素手でむしゃむしゃ食べる。包み紙と一緒に生ぬるい平日を丸めてゴミ箱にシュートする。そんな微々たるエンターテインメントが、確かにシャカイジンを救っている。