クジラと宇宙を泳ぐいくつかの冴えたやり方

クジラを飼えたらたぶんたのしい

少女は燐寸を擦るために煙草を吸う

幼い頃から転勤族であった自分にとって、故郷と呼べる場所はない。大人になれば散策してその街で生活することの楽しさを享受できるが、二、三年で住む街を味わい尽くすには子供の行動範囲ではあまりに足りない。時間や金銭における自由を手にする大学生活を…

妹の消滅

近所にある小さなコーヒー屋さんでアイスオレを飲みながら本を読んでいると、女性二人組が店に入ってきた。彼女たちは僕の向かいの席に通され、和気藹々とメニュー選びに興じている。向かって右手の女性がお姉ちゃん、ともう一人を呼ぶ。どうやら姉妹らしい…

薬罐を火にかけ八月を沸かして

夏なのでまた、失恋をした。 あまりにささやかな恋だったので、正直なところ「恋」と呼べる代物かどうか定かではない。そもそも「好き」だったのかどうかも、今となっては随分あやふやなのだが、一抹の寂しさと喪失感になぜかホッとしているこの感覚は、学生…

犬は歩くトコトコ、象は歩くノシノシ

もうすぐ6月が終わる。あっという間だ。もはやこの先、時間があっという間じゃないことなど無くなってしまうのだろう。 楽しい時間は矢のように過ぎていくものだけど、鬱屈とした時間も目まぐるしく過ぎていくのは、救いでもあり老いでもあるようで少し侘し…

白磁の初恋

今にして思えば、あれは初恋だったのだろう。 父親の仕事の都合で、私は幼い頃からジプシーのように日本中を転々としていた。まだ物心もつかないような昔には家族そろって北海道に住んでいたこともあったらしい。当時名古屋のアパートで、北の大地への転勤の…

やく男、かく男

今年めでたく厄年を迎えた僕の最初の災厄は「肌荒れ」という形で訪れた。 肌荒れごときで災厄とは大袈裟な、と思われるかもしれないが、凡そ首から上で褒められたところが肌の綺麗さしかない僕にとっては一番の災厄と言っても過言ではない。持たざる者から唯…

誇れる女の行進

「例えば、どうしようもなく苛立ってる女の子がいるとするでしょ。その子に対してどう接してあげるべきなんだと思う?」 カオリはフォークをくるくる回してスパゲッティを絡めたりほどいたりしながら僕に聞いた。 つい20分ほど前、突如として「ここ、相席、…

思夏期のころ

小説にせよ個人のブログにせよ、人の文章を読むということは自分にとって実りの多い趣味のひとつだ。 文筆家による書籍やライターによるコラム・インタビュー記事などはもとより、表現の場においても誰もが気軽に文章を書き、公に発信できるプラットフォーム…

七夜十一夜物語(side-A)

年が明けてから初めて、土日を「連休」として迎えられる。 平安神宮での2日遅れの初詣で商売繁盛を願った憶えはないのだが、なかなかに不穏な予感を禁じ得ない年始である。そんなことより待ち人はどうした。来ずか。来ずなのか。 久々の土日休みとはいえ落ち…

気持ちの葬式

僕が愛して止まないロックバンド くるりは名曲「ハローグッバイ」で、 この気持ち説明できる言葉も覚えた と歌った。 「嬉しい」だの「寂しい」だの、気持ちを一言で表す言葉はいくつもあるが、どの言葉もその時々で感じた心の機微を語り尽くすにはあまりに…

パンを焼くという儀式について

我が家に新しいオーブントースターが来たのは夏の暮れで秋のはじまり、かれこれもう3ヶ月近く前のことになる。 モスグリーンと言うべきかミントグリーンと言うべきか、なんとも形容しがたい「緑っぽい」色合いと、電化製品らしからぬ丸みを帯びたフォルムが…

やがて哀しき前田ガールズ

人がブログを書く動機など、煎じ詰めれば所詮は気分だ。 ましてやオーディエンスのほとんどいない、極々私的なブログとなれば、詭弁だらけの理屈で塗り固めた忌憚のない話題を展開することができる。 そういう逃げ(恥だが役に立つもの)を前置きに語るので…

君の名は(ギャンダマン)。

最近おかしな夢をよく見るようになった。 或いは、夢とはそもそもおかしなもので、起きた後までその夢を覚えていることが多くなった、と言ったほうが正しいかもしれない。 直近で言えば、ジャルジャルの後藤の一人称視点で、両腕を二匹のサソリに刺される夢…

紫陽花こわい

春先から発症した右足親指の巻き爪の悪化に、未だ悩まされ続けている。 単なる巻き爪が少し痛むくらいと放っておいていたのが完全に裏目に出た。 気づけば親指全体がイヤに「ぼてっ」と腫れ、紫とも青色ともつかないイヤな色に変色し、「ずきずき」とも「じ…

夏の子供たちはゆりかごを揺らす

五月からクールビズが始まった。まだ早えよ、などと思いながらスーツにネクタイで仕事をしていたが、ここ最近背中や首回りがジットリ汗ばむようになった。気づけばもう六月だ。カレンダーの数字がひとつ増え、最近の湿気を孕んだぬるい空気が順当に梅雨の気…

セクシーってなんですか?

ゴールデンウィークの最終日は、愛すべき先輩に会いに名古屋へ遊びに行き、あまりに美味しい手料理を振舞ってもらった後にだらだらと『人のセックスを笑うな』を観るという、およそ考えつく限り最高の日曜日の過ごし方を体現したのであった。観たことがある…

現世でランチ

今日も今日とてダラっとした日常にぶら下がっている。エンターテインメント性に充ち満ちた休日に比べて、なんなんだこのスリープモードのような平日は。無論、365日を楽しく過ごしたいだなんて極論を言うつもりはない。たまに「いつだって今が最高!今この瞬…

好き嫌いの話(後編)

好きな人やものがたくさんあるように、嫌いな人やものもたくさんある。世界の半分は無関心でできているとして、もう半分の関心ある諸々はすべて好きと嫌いで二分される。うら若い女性のスラっと伸びた指が映える右手は好ましいがガタガタの爪先がのぞく爪噛…

好き嫌いの話(前編)

極々個人的な話をすると、珈琲がとても好きだ。と言っても味の美味い不味いの評価基準は自分のなんとなくの好みや気分でしかないし、専門的知識が豊富なわけでもない、そもそも生得的(本質的には生失的)に匂いがほとんどわからないので、まったく「ちょっと…

春眠、見た夢を覚えず

人工的な暦で三月を迎えて二週間、ようやく季節の移ろいを感覚として感じられるようになってきた。カレンダーをめくって現れた数字を見て「もう春か」と思っていたのもつかの間、いつの間にか寝起きのフローリングの冷たさが和らぎ、マスクの意義がインフル…

鈍色のうみ

ちょうど一年くらい前に明石に降り立ったのもこんな雨の日だった。暦は三月、典型的な三寒四温の真っ只中であり、昨日までの少し汗ばむくらいの陽気が嘘のような肌寒さである。仕事で何度か明石に来たことはあったが、こんな雨降りの日に来たのは入社直前ギ…

ぼくがはてなブログをはじめた理由はだいたい1個ぐらいあって

ひとつめはブログというか、コラムを書きたいなと思ったこと去年の春から、大きくも小さくもないけど分不相応に大きいビルの中にある広告代理店で働いていて、始業時間までの15分くらいで「勉強」という名目を羽織りながら、TCC(東京コピーライターズクラブ)…