2017-01-01から1年間の記事一覧

タイプライターはモルフォ蝶の夢を見るか?

世の中に提唱されるあらゆる論説のひとつに「バタフライ効果」というものがある。 バタフライ効果(バタフライこうか、英: butterfly effect)とは、力学系の状態にわずかな変化を与えると、そのわずかな変化が無かった場合とは、その後の系の状態が大きく異…

少女は燐寸を擦るために煙草を吸う

幼い頃から転勤族であった自分にとって、故郷と呼べる場所はない。大人になれば散策してその街で生活することの楽しさを享受できるが、二、三年で住む街を味わい尽くすには子供の行動範囲ではあまりに足りない。時間や金銭における自由を手にする大学生活を…

妹の消滅

近所にある小さなコーヒー屋さんでアイスオレを飲みながら本を読んでいると、女性二人組が店に入ってきた。彼女たちは僕の向かいの席に通され、和気藹々とメニュー選びに興じている。向かって右手の女性がお姉ちゃん、ともう一人を呼ぶ。どうやら姉妹らしい…

薬罐を火にかけ八月を沸かして

夏なのでまた、失恋をした。 あまりにささやかな恋だったので、正直なところ「恋」と呼べる代物かどうか定かではない。そもそも「好き」だったのかどうかも、今となっては随分あやふやなのだが、一抹の寂しさと喪失感になぜかホッとしているこの感覚は、学生…

犬は歩くトコトコ、象は歩くノシノシ

もうすぐ6月が終わる。あっという間だ。もはやこの先、時間があっという間じゃないことなど無くなってしまうのだろう。 楽しい時間は矢のように過ぎていくものだけど、鬱屈とした時間も目まぐるしく過ぎていくのは、救いでもあり老いでもあるようで少し侘し…

白磁の初恋

今にして思えば、あれは初恋だったのだろう。 父親の仕事の都合で、私は幼い頃からジプシーのように日本中を転々としていた。まだ物心もつかないような昔には家族そろって北海道に住んでいたこともあったらしい。当時名古屋のアパートで、北の大地への転勤の…

やく男、かく男

今年めでたく厄年を迎えた僕の最初の災厄は「肌荒れ」という形で訪れた。 肌荒れごときで災厄とは大袈裟な、と思われるかもしれないが、凡そ首から上で褒められたところが肌の綺麗さしかない僕にとっては一番の災厄と言っても過言ではない。持たざる者から唯…

誇れる女の行進

「例えば、どうしようもなく苛立ってる女の子がいるとするでしょ。その子に対してどう接してあげるべきなんだと思う?」 カオリはフォークをくるくる回してスパゲッティを絡めたりほどいたりしながら僕に聞いた。 つい20分ほど前、突如として「ここ、相席、…

思夏期のころ

小説にせよ個人のブログにせよ、人の文章を読むということは自分にとって実りの多い趣味のひとつだ。 文筆家による書籍やライターによるコラム・インタビュー記事などはもとより、表現の場においても誰もが気軽に文章を書き、公に発信できるプラットフォーム…

七夜十一夜物語(side-A)

年が明けてから初めて、土日を「連休」として迎えられる。 平安神宮での2日遅れの初詣で商売繁盛を願った憶えはないのだが、なかなかに不穏な予感を禁じ得ない年始である。そんなことより待ち人はどうした。来ずか。来ずなのか。 久々の土日休みとはいえ落ち…