21世紀の(日照らない)都に雨が降る

京都のよく行く喫茶店に久々に来ている。「よく行く」のか「久々」なのかよくわからない状況ではあるが、そんなことはどうでも吉田類。いつも腰掛けるテーブル席に通され、コーヒーを注文する。カップの中の液体が空になり、タバコを3本消す間に、4人掛けのテーブル席には様々な人々が座り、コーヒーを飲み、席を立つ。明日行くボロフェスタに出演するバンドのドラマーさんとぽつぽつ言葉を交わして、ライブへの楽しみを増幅させる。

雨足が強まってきた。隣には若い男女が向かい合わせで座っている。男が延々、コーヒーについての講釈を垂れている。彼が着ている黒いタートルネックや褪せたジーンズやボロいスニーカーも相まって、とても芳ばしい。舌ったらずの女にジッポーの仕組みを解説している。まるで、ジョブズiPhoneの新作を発表する時のように饒舌である。俺は愚かで腹が減っているので、ハンバーガーが食べたくなる。

村上春樹の『遠い太鼓』を読んでいる。ひとり村上春樹を喫茶店で読むという行為の芳ばしさを隠すようにしてブックカバーを付けている。しかしこの小説(旅行記/日記)の面白さはすごい。奥さんの口ぶりは村上フィルターを通して、どうしても緑や208、209、青豆で再生されてしまう。或いは、彼女たちの口ぶりが村上夫人に寄っているのか。どちらでもいい。

東京の友人たちからテレビ電話がかかってくる。彼女たちが京都に帰ってきたらば、僕のIQは100下がるだろうな、と思う。一人で喫茶店にいるというのに、テレビ電話で話す。ずっとわーきゃー言っているだけで、会話にならない。愛おしいが、狂っている。

近々大学時代の親友が結婚する。彼女の彼氏(旦那さん)には一度会っているが、びっくりするほどの好青年で、本当にびっくりした。会う前にどんな人なのか聞くと「ずっとニコニコしてる」と言っていたが、しっかりニコニコしていたし、彼女もニコニコしていた。とても幸せそうで良かったなぁと心底思った。末長くニコニコ過ごしてほしい。

ずいぶん混んできた。グラスの水も無くなってしまった。雨は止まないが、濡れ細った街が綺麗なので外に出てみようと思う。